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開催レポート

DAY1 - Future Pitch

2019年10月5日(土)、30℃をこえる季節外れの暑さ。虎ノ門ヒルズすぐそばの、空き地で新虎ビレッジがオープンした。新虎ビレッジとは、「あらゆるヒトが集まり、新しいコトが生まれる」のを目指した遊び場・実験場。訪問者の感性を刺激するストリートアートと、リユースされた廃材で構成される野外空間である。そのオープニングイベントとして開催されたオランダ・ハーグから日本に初上陸したBorder Sessions。直前の告知にも関わらず、100人弱の参加者が集い、国内外の18人のスピーカーによる20分ルールのピッチに耳を傾けた。プロデューサーの佐藤氏から「未来の傍観者から創造者へ」という力強い宣言からオープニングがスタート。

まず、「Well-being」をテーマに4人のゲストが登壇した。トップバッターはダニエル氏、個々人が自分で健康状態を把握できる未来のために、尿検査を日常の習慣にするための洗練されたデザインプロダクトを紹介した。続く、イーライ氏は、バイオデザインのプロセスの自動化・効率化と新薬開発、ゲノム食品、マテリアル開発などを事例にゲノムのデザインの可能性を語った。テクノロジーの話題から一点、土谷氏は生活の解像度を高める観察について具体的なリサーチ結果を交え紹介し、デザインとは未来の新たなシナリオを創ることにあると話す。そして、杉原氏は、実験的で洗練されたプロダクトを多数紹介し、その裏側にはパラアスリートへの技術開発提供での経験を活かしている経緯を紹介。とても振れ幅の大きい4人のプレゼンテーションに、思考は拡散され、会場の雰囲気もカオス状態に。

ランチセッションでは、シェフの入江誠氏から食材の乱獲によりサステナビリティが課題となっている現代社会への問題提起があった。そして、「いつか動物性タンパク質がなくなるかもしれない」というメッセージを込めた”未来のまかない”のひよこ豆を素材にした丼が紹介された。

強烈な日差しが続く中、午後のピッチ、冒頭のゲストはエヴァ氏。新虎ビレッジのコンセプトや実装にも携わった。アムステルダムでのアーバンデザインの経験を語り、最後は新虎ビレッジのできたてのメイキングムービーを披露した。エヴァに続き、「Living Anywhere」のテーマで、地盤沈下や海面上昇によって生活の質が低下しているフィリピン・マニラ湾沿いでのFloating House(水上の家)の実験や2016年のBorder Sessionから誕生した宇宙上で暮らすための農業の市民を巻き込んだ研究プロジェクトの「Astroplant」が、ピーター・ハム氏、ダニエル氏の両ゲストから紹介された。

第三のテーマ「Next Art」の頃には、虎ノ門のビル群が日差しを遮り、ビル風を送り込んでくれ会場が快適になりはじめた。今回のゲストの中でも、もっとも実験的で強烈な印象を残したのが、イアン氏。ピッチのスライドのいち枚目には、Telling Animalsというタイトルが。その問いの設定に度肝を抜かれると同時に、紹介された実験一つ一つの映像に、会場の参加者はどのように反応してよいのか、戸惑いを見せた。ピーター・エルンスト・クーレン氏によるグラフィティやストリートアートの歴史とアムステルダムの巨大なミュージアムの紹介、ティム氏の豊富なスペキュラティブデザインを通じた未来に起こりうることについての対話が続く。5つのセッションのうちで、もっとも遠い未来を想起させたセッションであった。

自転車やコンテナなどさまざまな廃材を活用したデザインが施されているこの空間で、第四のお題「Circulator Economy」は会場のコンセプトとも合致するテーマ。一人目として、アマゾンと日本を行き来してきた武田氏による、環境と経済を両立させ、森の民の生活を守りながら地球全体の循環をつなぐ壮大な挑戦に耳を傾けた。続いて、自身の祖父から農のDNAを受け継ぐ芹澤氏は、市民が「自分で育てる」楽しみを取り戻す活動を通じ、農と食のサステナビリティチェーンを次世代に繋ごう、と話した。ラストの中台氏は、自社がひきうけた廃材を用い、会場インテリアを彩った立役者の一人。彼から繰り返し発せられたのは、出てしまう廃棄物をただ情緒的に否定するより、クリエイティブに使って至福の経済を追求しようというメッセージだった。そのあり方は、まさに一人一人が未来の創造者・担い手となろう、というBorder Sessionsの思想とも思いを一つにするものであった。

最後のセッションテーマは、「Community Value」。まず、ニコニコ学会βのプロデューサーでメディアアーティストの江渡氏が、つくば市をフィールドに、メイカーズスピリットを起爆剤として研究学園都市から実験都市へと変貌させていく試みを語る。そして、ピーター・フランケン氏は当初の講演内容だったブロックチェーンから一転、SAFECASTの取り組みを紹介。Borders Sessionsの実験的な雰囲気とストーリーを重視した方向性と合致する内容とアップテンポなプレゼンテーション。そして、最後のゲストは、昨日、サンフランシスコから駆けつけたインダストリアル・デザイナーのプナム氏。「サイエンスフィクションを現実にし、よりよい未来のために」を仕事の目的に設定し、あらゆるジャンルで手掛けた完成度の高いプロダクトやサービスを紹介した。

会場にはライトが灯る。仕掛け人の一人である山寺氏からボーダーセッションとの出会いから、今日までのストーリーが手短に共有され、さらに、プロデューサーの本村氏から「自分で手を汚してやってみないとわからない」と明日からスタートするサミットと新虎ビレッジという実験場のオープニングにふさわしいメッセージを。そして、シークレット・ゲストとして、Ethereum Foundationの宮口礼子氏が、P2Pで仲介を減らし個人のアイデンティティを知らない間にコントロールされないような世界とビジョンを語れば、Mistletoeの孫泰蔵氏は、テクノロジーの可能性の追求から始まるサイド・エフェクトをドローンの事例を通じて紹介した。翌日のサミットへの期待度が高まった状態で、Border Sessions1日目は締めくくられた。

DAY2 - Summit / Lab

夏日から一転、秋雨が降り、肌寒さを感じる中、2日目がスタートした。過剰を新虎ビレッジから徒歩5分弱の新虎COREに移し、総勢70名が集まった。サミットと銘打った2日目は、Border Sessionsの目玉であるサミット。これから半年間にわたって、展開されるラボのキックオフであり、ラボにとってチームの初日である。昨日のピッチを裏方として運営を支えたスタッフがファシリテーターとして、ラボメンバーとして、各グループに参加した。

まず、8つのラボのテーマオーナーが、実験したいこととその動機について語った。昨日のスピーカーのひとり、中台氏がマテリアル・ライブラリーの構想にさらに具体性をもたせた内容を共有した。続いて、サミットから参加のOTON GLASSの島影氏は、プロダクトの開発ストーリーと簡単なデモ、そしてFab Biotopeの構想を披露した。LIXIL Future Public Sanitation Labは、新虎ビレッジに設置してあるトイレがすでに実験場の一つとなっており、パブリックトイレを多面的に考察したプレゼンテーションを披露。このチームにフローティングハウスのピーター・ハムも加わり、総勢15名を越えるチームとなった。Panasonicは、Future Life Factoryから「心がおいしい食主義」で、食にまつわるダイバーシティや主義思想の対立という領域を横断したテーマが発表された。続いて、ラフールの森田氏から時間のDIYを通じたメンタルヘルスケアのビジョンを、家業のアップデートについては本村氏から実験の方向性が示された。そして、ラストは昨日も登壇したNNNのティムから、スペキュラティヴな取り組みの日本で実現するプロジェクトが紹介された。参加者は各グループに散らばり、限られた時間の中で、2025年の生活を構想し、これからの半年で実験を実行するプランニングに取り掛かった。

ワークショップの構成や仕掛けに目新しさはない。机には模造紙と付箋とマッキー、一つのテーブルに5人から、多いグループでは16人が机を囲んだ。議論しているテーマについても、未来の可能性を議論する問いが多いが、昨日のピッチのTelling Animalsのような斜め上の問いはない。

ラボの一覧

No LAB title 主催者 LAB概要

1

Future Energy LAB

株式会社ナカダイ

廃材を生まないソサエティ3.0を加速かせるリサイクル研究と廃材を分解する施設の考案

2

Future Inclusiveness LAB

株式会社オトングラス Fab Biotope

多様性の発明を同時多発的に引き起こす(社会実装)プラットフォームの構築など、ものづくりの民主化を超え、個人の意思が尊重される社会的プラットフォーム

3

Future Public Sanitation LAB

株式会社リクシル

誰もが使える公共トイレ・キッチンの考案

4

Future Food LAB

株式会社Eyes Japan

食材x調理器x食文化で心地よい暮らしを実現

5

Future Healthcare LAB

株式会社ラフール

6

Future SMe (small medium enterprise) LAB

Border Sessions実行委員会

国内の事業承継問題を解決する。家業ビジネスの発展に寄与する仕組みの考案

7

Future Design Research LAB

Tim Hoogesteger / Next Nature Network

未来を大胆に描き、実験を繰り返しながら社会に落とし込むにはどうすればいいだろうか。そのプロセスを実験的な実例をもって考えていく

ランチにはスープカレーが提供された。しかし、時間を惜しんで、ランチ中も議論をし続けるチームが多数続出。ランチ後のトークセッションは資生堂のR&Dオープンイノベーションプログラムfibonaのプロジェクトリーダーである中西裕子氏から、Beautyを軸に、その未来を形にした映像やプロダクトが紹介された。そのまま、昨日のゲスト江渡氏、さらに山寺氏が加わり、トークセッション。美とはなにか、ゆるやかなコミュニティ運営の困難さ、ビジョンと現実のすり合わせ方など、抽象的な議論から、ラボでの実践に役立つティップスまで話題は拡散した。やってみないとわからない面白さと困難さをこれから味わってほしい、そう山寺氏はセッションを締めくくった。

そして、サミットの締めくくりとして、議論の末にそれぞれのラボが描いた2025年のイメージと実装するための具体的な実験計画を発表した。今後、それぞれのラボでは、新虎ビレッジを拠点に実験経過を公開していく予定である。

Border Sessionsは2日間のイベントに参加し、ただ、面白かった、なんとなく楽しかったね、では終わらない。アイデアを形に、具体的に形していく地道な作業に取り掛かることにコミットし、社会に実装していく。さらに、今回の参加者の中から、野心的なアイデアを自分のラボを、自分が主体となって新たなラボを創る側になる人を生み出していく。クロージング・リマークは、は強いメッセージで締めくくられた。

未来に深い洞察を持つゲストの話を聞いても、未来を考える議論に参加しても、一歩を踏み出して実行しなければ、2日間はよい思い出で記憶の奥底にしまわれ、明日からはまた繰り返しの日常になってしまうのだ。海外発のイベントに参加して刺激を受けた土日にするのか、自分たちのストーリーが始まった特別な1日として人生に記憶されるのか、その結果がどうなったかを私たちは2020年3月までの新虎ビレッジで目撃することができるだろう。

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